小さな世界での助け合い

tsukubascienceadmin
By Dawa 11月 25, 2010 09:17

?ミトコンドリアの驚くべき動態?

細胞の中のミトコンドリアネットワーク 写真:David Hackos

細胞の中のミトコンドリアネットワーク 写真:David Hackos

私たちの身体を形作る、細胞。その小さな世界には様々な役割を持った器官が多く存在している。例えば、身体の設計図であるゲノムDNAを保管している“核”、タンパク質生産工場の“小胞体”、それら器官の中で不要になったものを分解するごみ焼却場のような“オートファゴソーム”。そして、今回取り上げる“ミトコンドリア”である。細胞内でのミトコンドリアの驚くべき動態をあなたは知っているだろうか?

 

ミトコンドリアとは、いうなれば細胞のエネルギー工場である。私たちの身体は何をするにもエネルギーが必要で、それは主に酸素と糖分から作られる。実はミトコンドリアでなくともエネルギーを作り出すことはできるが、非常に効率が悪い。ミトコンドリアのエネルギー産生の効率の良さは、非効率な経路の約20倍という値からもわかるだろう。また、ミトコンドリアには忘れてはならない特徴がある。独自のDNAを持つということだ。

およそ20億年前、ミトコンドリアは別の生物が寄生のような形を経て私たちの細胞の一部となった経緯があり、自身の設計図であるDNAのほとんどは核へ移動しているが、一部のDNAはその内部にいまだ残り続けている。そして、そのいまだ残っているDNAの情報からも、エネルギー産生に必要な部品であるタンパク質を作り出している。

このように解明されていると思われているミトコンドリアも、長い間誤解されていたことがある。顕微鏡技術の発展で細胞内の様子も見ることができるようになった頃、もちろんミトコンドリアも観察された。この時は、細胞の中で浮遊する、楕円球状の器官だとみなされ、高校の生物の教科書などでは今でも、一つひとつが独立した豆のような形で存在しているミトコンドリアの絵が掲載されている。

しかし、これはミトコンドリアの可視化技術が未発達であったために、細胞を輪切りにしたときのような断面図を見ていただけであった。さらなる技術の発展のおかげで、この認識を覆すような新たな発見が20世紀中ごろに見つけることができ、それがミトコンドリアネットワークであった。上の写真はミトコンドリアに蛍光物質をつけて細胞の中でのミトコンドリアを可視化したものである。見てわかる通り、ミトコンドリアは核の周りに集まり、ネットワークを形成している。豆状のようなものも見られるが、ごく僅かである。しかし、驚くべき発見はこれだけでない。更なる研究によって新たなミトコンドリアの性質が解明された。それはミトコンドリアの“融合”と“分裂”である。

前述したように、ミトコンドリアは独自のDNAをもっている。付け加えると、同じ情報を持ったDNAをたくさん含んでいる。そのDNAは核のような保護膜がないので突然変異を生じやすい。DNAの突然変異とは、紙の設計図の染みのようなもので、正しく部品を作ることができなくなることがある。もし、一部のDNAの重要な部分に突然変異が生じて、変異入りのDNAがそのミトコンドリアの大多数をしめてくると、そのミトコンドリアは正常な部品が作れず、部品の需要と供給のバランスが崩れ、ミトコンドリアそのものがダメになってしまう。そしてダメになったミトコンドリアは排除されてしまう。

しかし、ちゃんと回避するためのメカニズムが存在する。それが“融合”だ。手遅れになる前に他の正常なミトコンドリアと融合すると、お互いのDNAや部品であるタンパク質が交換され、ダメになりかけていたミトコンドリアは変異が入ってないDNAや正常な部品を得ることができる。そして、それにより変異入りのDNAの比率も減少する。小さなミトコンドリアにとって、多い変異入りのDNA(毒)も、ミトコンドリアネットワーク全体に散らばれば、致死量には至らない。この“ミトコンドリアの融合”によって、変異が蓄積していたミトコンドリアは持ち直すことができ、エネルギーを作り続けられるようになるのだ。

また、普段は核の周りに集まっているミトコンドリアだが、核から離れたところでエネルギーが必要な場合もある。その時は“分裂”することによって、粒状(豆状)のミトコンドリアを作り出し、その場所へ送り出す。いわゆる支社への出張のようなものである。この本社(核周囲)と支社(細胞末端)でのミトコンドリアの働きによって、細胞は安定したエネルギー供給を得ることができる。

教科書では豆状で、1つ1つ独立して存在しているかのように描かれているミトコンドリアだが、実際の細胞内では、互いにネットワークを形成している。“融合”と“分裂”を繰り返して、他のミトコンドリアとうまく相互作用、助け合いをしながら機能しているのである。まるでそれはヒトとヒトとの関係のようにではないだろうか。

tsukubascienceadmin
By Dawa 11月 25, 2010 09:17
Write a comment

No Comments

No Comments Yet!

Let me tell You a sad story ! There are no comments yet, but You can be first one to comment this article.

Write a comment
View comments

Write a comment

Your e-mail address will not be published.
Required fields are marked*