ショウジョウバエの中の宇宙

tsukubascienceadmin
By 尾嶋 好美 4月 26, 2011 09:37

ショウジョウバエの中の宇宙

「neuron galaxy ニューロン銀河」の世界へようこそ

第一回「科学の美」の最優秀賞はショウジョウバエの幼虫の脳と前胸腺を撮影したものでした。この写真をみたとき、私は「ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた銀河みたい」と思いました。ハッブル宇宙望遠鏡は様々な宇宙の謎を解明しつつ、宇宙の美しさを私たちに教えてくれました。顕微鏡も、様々な生物の謎を解明するとともに、生物の美しさを私たちに教えてくれます。

■島田さんの研究テーマについて教えてください

昆虫(主にはキイロショウジョウバエ)を材料として、ステロイドホルモンの生合成調節機構について研究しています。多くの昆虫は、幼虫の時に脱皮を繰り返して大きくなり、蛹を経て成体になります。幼虫→幼虫(脱皮)、または幼虫→成体(変態)のタイミングは、エクジソンというステロイドホルモンによって制御されています。脱皮と変態が起こる前には昆虫体内でのエクジソン濃度が急激に上がることが知られています。私は、生物の各発生段階において、ステロイドホルモンがどのように作られて、体内でのホルモン量がどのように適正に調節されているかということを調べています。

neuron galaxy ニューロン銀河 | 島田-丹羽 裕子

neuron galaxy ニューロン銀河 | 島田-丹羽 裕子

■この写真はどのような写真なのでしょう?

これはショウジョウバエの幼虫の脳と前胸腺です。この写真で赤いハート形の部分が前胸腺という組織です。前胸腺は、約50個の細胞からできており、1つ1つの細胞がエクジソンを合成し、分泌しています。濃い赤や白っぽい丸の部分は核です。一方、赤いハート形の前胸腺の下にぼんやりと青く光っている球体が二つ見えます。これが脳です。脳から前胸腺に向かって伸びている緑色のものはニューロンです。緑の丸が細胞体で、そこから無数の神経突起が伸びて脳内に広がっています。そして、ニューロンの一部が前胸腺にも伸びていることがわかります。

私たちの研究グループでは、このニューロンを介して、脳側からの情報が伝えられ、前胸腺でのエクジソン合成が調節されているのではないかと考えています。

■この写真に写っている前胸腺の大きさはどれくらいなのですか?

200マイクロメートル程度です。ショウジョウバエの幼虫を実体顕微鏡の下でピンセットを用いて解剖し、抗体染色法を用いて各細胞を可視化しました。写真は、ツァイス社製の共焦点レーザー顕微鏡 LSM700 で撮影しました。

■この写真は一般的にきれいだと思うのですが、科学的にも「きれい」であることは必要なのでしょうか?

科学における写真の重要性には2つポイントがあります。1つは、「百聞は一見に如かず」の格言の通り、写真のデータは非常に説得力があります。自分の発見を他者にきちんと伝えるためには、「わかりやすい」「鮮明な」「美しい」写真を撮る必要があります。そのために、何回も実験をくりかえして条件検討を行い、何日も顕微鏡で観察して、何百枚も写真を撮っています。精魂こめて撮った膨大な数の画像データの中からやっと1枚だけを選んで論文に載せます。
2つめは、衆目を集める目的です。分野内外を問わず多くの人の興味をひくためには、芸術性をもった美しい写真を撮ることはとても大事です。論文雑誌を発行する出版社は巻頭ページの写真を毎回募集しますし、顕微鏡メーカーは毎年フォトコンテストを行います。美しい写真を撮る技術は、科学者の業績として評価されるほど重要な技術の1つです。

■美しい写真を撮るためのコツは何でしょうか?

日々の実験では、自分が知りたいことに焦点を充てて写真を撮っているので、きれいな写真を撮ることを目的にはしていませんが、偶然きれいな写真が得られる場合があります。写真を撮る技術は地道なトレーニングと経験に基づくもので、試料ごとに試行錯誤することが必要です。つまり、カメラのオートモードに頼るのではなく、顕微鏡の原理やカメラの特性を熟知した上で設定を少しずつ手動で変えてベストな画像取得条件を検討することが大事です。美的センスもある程度必要かもしれませんが、生命現象をもっともっとよく知りたい/観たいと願う気持ちが一番必要な気がします。

■顕微鏡写真の撮り方は昔と違ってきているんですよね?

顕微鏡技術と生体イメージング技術は日々進展しています。オワンクラゲから 緑色蛍光タンパク質 (green fluorescence protein, GFP) が発見されて以来、様々な蛍光タンパク質が同定されてきています。CFP、GFP、YFP、RFP等、異なる波長の色を出す蛍光タンパク質または蛍光標識色素を組み合わせることで、複数のタンパク質の分布を同時に検出することが可能です。また、特定の波長の光を照射することで、緑色から赤色に変化するタンパク質(photoconvertible ptoten, Kaede)や蛍光を消すタンパク質 (photochromic protein, Dronpa) などもあります。これらの蛍光プローブを利用することで、自分が探究したい生命現象を生きた個体の中でリアルタイムで観察することができます。さらに、特殊な画像解析ソフトを用いることで、組織/細胞をパソコンの中で3次元的に再構築して、様々な角度から観察することもできます。論文の印刷媒体は2次元ですが、web 上では 3D や 4D のデータをムービー形式で見ることができます。

■「科学の美」に応募した理由はなんでしょう?

私たちの研究を異分野の研究者や研究者以外の方々に紹介できる機会は実際に限られています。今回、「インパクトがある写真」という形で1人でも多くの人々に興味をもってもらえることができれば、そこから様々な分野の知識が融合するきっかけが生まれるのではないかと願って応募しました。多様な知識の交流は科学の発展につながります。

 

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By 尾嶋 好美 4月 26, 2011 09:37
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