放射線とは何か? 半減期

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By ウッド・マット 翻訳:森田 望美、長友 亘 4月 3, 2011 20:52

放射線とは何か? 半減期

放射線とは何か?のシリーズについて

福島第一原発の問題を受け、ニュースは、同位体、放射線、汚染、そして健康被害などの話であふれ返っています。しかし、「半減期」や「マイクロシーベルト」と言われても、よくわかりませんよね。今話題になっている一連のニュースを理解するためには、原子物理学について少し知っておく必要があります。これからの連載記事では、最近の話題をより理解するために、いくつかのポイントとなる概念について紹介していきます。(「物理なんてわからない」と心配するには及びません。全部、簡単にまとめてありますよ。)

前回は、同位体とはどういうものか、また放射線を生みだす源は放射性同位体の崩壊である、ということについて紹介しました。

引き続き、炭素を例にとって考えてみましょう。炭素は、その他に存在するたくさんの元素と同じように、中性子の数が異なるいくつかの同位体を持っている、ということを思い出してください。炭素12と炭素13は陽子と中性子と電子の間に働く力のバランスが保たれていて安定しているため、変化することはほとんどありません。しかし、放射性同位体である炭素14は不安定なので、崩壊してより安定的なものになろうとします。炭素14の場合は崩壊することで窒素14になりますが、この過程で炭素14は「β(ベータ)線」と呼ばれる放射線の一種を放出します。放射線の種類にはβ線のほかに、「α(アルファ)線」や「γ(ガンマ)線」などがあります。これらの放射線についてはのちほど詳しくみることにしましょう。

炭素14は窒素14に崩壊します

炭素14は窒素14に崩壊します

炭素14の崩壊は非常にゆっくりと起こります。実際のところ、ある量の炭素14のうち、その半分が崩壊して窒素14になるには、約5730年もかかるのです。言い換えれば、ある量の炭素14は5730年経つと半分の量になる、ということです。このように、もとあった炭素14の量が半分になる時間(もとあった量の半分が崩壊して窒素14になる時間)のことを、「半減期」と呼びます。半減期は、同位体の崩壊する速さを説明するときによく使われます。では、半減期を2倍した時間が経てば、放射性同位体は全て崩壊するのでしょうか?いいえ、そうではありません。炭素14を例に挙げて考えてみましょう。仮に、あなたはカップ1杯分の炭素14を持っているとします。そこから5730年待てば、あなたはカップ半分の窒素14と、同じくカップ半分の炭素14を持つことになります。さらに5730年待つと、「残っていた炭素14の半分」、つまり2分の1カップ分の炭素14のうちの半分が崩壊するので、この時点でカップには4分の3カップ分の窒素14と、4分の1カップ分の炭素14が入っていることになるのです。もう5730年待つと…もう想像できますね?4分の1カップ分の半分、つまり8分の1カップ分の炭素14が崩壊して窒素14になり、全体として窒素14は8分の7カップ、炭素14は8分の1カップ分残ることになります。

半減期は放射性同位体の半分が崩壊する時間

半減期は放射性同位体の半分が崩壊する時間

では、最近話題になっている元素「ヨウ素」に注目してみましょう。ニュースを見ているとヨウ素はとても危険なもののように感じてしまいます。しかし実際には、身体の健康を保つ上でヨウ素は非常に必要なのです。ヨウ素はのど元にある甲状腺という器官の中で作られる甲状腺ホルモンの材料となるのです。

ニュースで伝えられている危険なヨウ素とは、放射性同位体であるヨウ素131を指しています。安定的で、身体に安全なヨウ素は53個の陽子と74個の中性子を持っています。一方、ヨウ素131は53個の陽子と78個の中性子を持っています。ヨウ素131は不安定で、崩壊することでキセノン131になります。このときに先ほど紹介した、γ線やβ線といった放射線を放出するのです。

ヨウ素131の崩壊は非常に速く起こります。ヨウ素131の半減期は、たったの8日なのです。8日という非常に短い半減期は、ヨウ素131がすぐに消失していくという点では良いことです。しかし裏を返せば、短期間でたくさんの放射線を放出するという悪い面があるということです。

半減期の数値から私たちが読み取れるのは、放射性同位体がどれだけの間、私たちの周りに存在するか、ということです。放射性同位体がどの程度安全か、または危険か、という指標ではないのです。

短い半減期と長い半減期の比べ

短い半減期と長い半減期の比べ

ヨウ素131は非常に高い関心を集めています。その理由は、私たちの体の中では通常のヨウ素と区別がつけられず、ヨウ素131が体内に入ると甲状腺に蓄積されてしまうためです。甲状腺に蓄積されたヨウ素131から放出されるたくさんの放射線により、がんを発症する危険性があります。しかしながら、自ら進んでヨウ素131を大量に摂取するようなことがない限り、がんの発症という危険性は少ないようです。

次回は、異なる種類の放射線についてみていきましょう。

 

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By ウッド・マット 翻訳:森田 望美、長友 亘 4月 3, 2011 20:52