植物による土壌回復

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By 尾嶋 好美 7月 28, 2011 19:39
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古川先生 (写真マット・ウッド)

自由に動けない植物は、根から、成長に必要な特定の元素を取り込む仕組みを持っています。この仕組みが、「放射性物質に汚染された土壌の回復につながるのではないか?」として注目を集めています。今回は金属元素の植物への取り込みについて研究をされている筑波大学アイソトープ総合センターの古川先生にお話しを聞いてきました。


■植物はどのようにして必要な元素を取り込んでいるのでしょうか?

植物の成長や生存には、窒素、リン、カリウムなどの元素が必要です。植物の根には、トランスポーター(輸送体)とよばれるタンパク質が存在しています。このトランスポーターが、土の中にある元素を植物の中に取り込んだり植物体内を運んだりしています。窒素トランスポーターは窒素を、リントランスポーターはリンをといったように、トランスポーターによって取り込み元素の種類は異なります。水の中に溶けた状態で存在する元素は取り込みやすいのですが、土の中では必要な元素が溶けていないことがあります。どうしても足りなくなったときは、植物がいろいろな酸を出して、必要元素を土から溶け出させて吸収するということもあります。

■植物はセシウムを取り込むのでしょうか?

セシウムは構造がカリウムに非常によく似ています。そのため、カリウムトランスポーターがカリウムと間違えてセシウムを取り込むということがあります。通常、肥料には、窒素、リン、カリウムが多く含まれるのですが、カリウムを極端に減らした肥料を植物に与えると、植物体内でカリウムだけが不足している状態になるため土壌にもともとあるカリウムを取り込もうとする機能が活性化されます。このような仕組みを使えば、カリウムと間違われて取り込まれるセシウムの量が増えると思われます。

遺伝子組換えを行い、セシウムを取り込みやすい植物を作成するということは原理的には可能です。またはセシウムを取り込みやすい植物をさがしてきて利用するということもできますが、現時点では「セシウムを取り込みやすい植物」についての研究はほとんどされておらず、データが足りません。福島原子力発電所の事故が起こる前には、セシウムを取り込む植物の需要はほとんどなかったので、研究者自体が極めて少ないのです。

■セシウムの除去にヒマワリが有効だというのはなぜですか?

セシウムは土とくっつきやすく、離れにくいという性質を持っています。そのため表面の土にくっついたセシウムは雨が降ったとしても、浅いところにとどまります。このためセシウムを吸収するためには、根を浅くはる植物である必要があります。深く根をはる植物では意味がないのです。ヒマワリは浅く根を張る植物であり、成長も早いということで注目されています。一方で、セシウムを吸収したヒマワリは放射線量が多くなっているので、どのように処分するかという問題が生じます。

■セシウムを除去できれば、土壌汚染の問題は解決するのでしょうか?

私は、セシウムよりもストロンチウムの方が怖いと思っています。ストロンチウムはセシウムよりも放出される量が少ないと考えられていますし、測定すること自体が難しいため、事故当初は検出されておらず、そのために報道もされていませんでした。しかし、6月なってストロンチウムが検出されたというニュースが出始めました。

セシウムはカリウムに構造が似ているため、人体に取り込んだとしても、100日から200日で約半分が排出されますが、ストロンチウムはカルシウムに構造が似ているため、骨に取り込まれやすいのです。ストロンチウムが骨に取り込まれると、骨髄に近いので、血液細胞等の新生などに影響が及びます。ストロンチウムの半減期は28.9年とセシウム同様長いため、今後、次々に検出され、おそらく問題となることでしょう。

トランスポーターの遺伝子組換えを行えば、「ストロンチウムを取り込みやすい植物」を作成することが可能です。ただし日本では遺伝子組換え作物に対する拒否反応が大きいので、実際に使えるようになるまでには時間がかかるかもしれません。

もう一つの案としては、ストロンチウムを取り込みやすい植物をさがし出してくることです。これもまた時間がかかる話です。しかし、半減期が28.9年ということは、28.9年たっても今あるストロンチウムは半分にしか減らないわけです。0にはなりません。ストロンチウムを取り込む植物を作り出すもしくは探し出すのに10年かかったとしても、土壌内のストロンチウムを0にするまでの時間を縮めると言った点で、「ストロンチウムを取り込む植物の研究」は有意義だと思っています。

■具体的にはどのような研究をなさるのでしょう?

窒素、リン、カリウムなど通常植物が必要として取り込んでいるもののトランスポーターの研究は今までもたくさん行われてきていて、多くの知見があります。私は、今まで、亜鉛やカドミウムといった金属元素のトランスポーターの研究をしてきました。カドミウムのトランスポーターはカルシウムのトランスポーターとして知られているものだったり、鉄のトランスポーターとして知られているものでした。「ではストロンチウムはどう?」という研究は、今まであまりされておらず、情報がないのです。

私が研究に使っているのはミヤコグサというモデル植物です。モデル植物で「ストロンチウムを取り込む機能を持つ」遺伝子が分かってくると、他の植物の遺伝子組換えも可能になります。もしくはそのような遺伝子を持つ植物を選抜してくるということができるようになります。「この遺伝子配列ならストロンチウムを取り込みます」という配列情報をみつけることが、まずは必要になります。アメリカでは鉄や亜鉛といった人間にとっても大事なミネラルをため込むようなダイズの研究がされています。ミヤコグサはマメ科の植物なので、ミヤコグサでの遺伝子配列がわかれば、それをダイズに組み込んで、土壌汚染された地でダイズを作るというストーリーが考えられます。

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By 尾嶋 好美 7月 28, 2011 19:39
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