放射線について知ろう

tsukubascienceadmin
By 尾嶋 好美 6月 4, 2011 19:16

Morita-Masumoto桝本 和義先生
高エネルギー加速器研究機構
放射線科学センター 教授

森田洋平先生
高エネルギー加速器研究機構
広報室室長

桝本先生、森田先生ともに高エネルギー加速器研究機構(KEK)の研究者でいらっしゃいます。桝本先生は放射線測定のプロフェッショナルです。今回、普段放射線を取り扱っている研究者としての立場からインタビューに答えていただきました。


■放射線の種類について教えてください。

代表的な放射線にはα(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線があります。
α線は紙を通過することができません。β線は紙を通過できますが、数ミリのアルミニウムの板を通過することはできません。ガンマ線は紙もアルミニウムも通過しますが、厚い鉛の板は通過できません。
このほかの放射線には中性子線、陽電子線、陽子線などがあります。中性子線は原子炉での反応によって作り出されます。中性子線は鉛も通過してしまいます。中性子線は水の中に入ると、減速します。減速した中性子はホウ素やカドミウムに吸収させられます。

放射線の中で体内に入った場合に一番怖いのはα線です。α線は紙も通過できないので、体の外にある場合は心配ありません。ただし、呼吸や飲食などによって体の中に取り込んでしまうと細胞の中の遺伝子を壊すことがあります。ガンマ線は体外からでも体の中に入ってきますが、そのまま外に通り抜けるから、量が多くなければそれほど心配はありません。このように放射線は種類によって、人体に与える影響が違います。

放射線は化学物質などに比べて、非常に少ない量でも測れます。身の回りにある自然の放射線というのは案外多いんですね。建物や人間の体の中にもあります。そのため物質からでている放射線だけを正確に測るには、鉛などで厳重に囲んだ中で測定する必要があります。それでも自然放射線が測定装置に入ってしまって正確に測定できないこともあります。

■放射線を出す物質にはどんなものがありますか?

自然界にはいろいろな放射性物質がありますが、今回の福島第一原子力発電所の事故に関連するのはヨウ素、カリウム、セシウム、ストロンチウムなどです。体内に取り込まれた場合、元素によってたまって行く場所が異なります。

ヨウ素の場合甲状腺にたまりやすいです。チェルノブイリの原発事故の後、小さい子供の中に甲状腺ガンがみられたのはそのためです。内陸のチェルノブイリに住んでいた人は甲状腺にヨウ素がたまっていなかったので、放射性ヨウ素がたまりやすかったと思われます。

一方、日本人の場合、ワカメや昆布などを摂取しているため、もともと甲状腺にヨウ素が多くたまっています。そのため放射性ヨウ素を取り込んでも、チェルノブイリ周辺の人とは違って、たまりにくいことを示唆する報告があります。(脚注)

今回の福島原発の事故ではおそらくストロンチウムも放出されたと考えられます。過去の例では、セシウムが飛んできている時はストロンチウムも一緒に飛んできていることが多いのです。ストロンチウムはカルシウムと似ているため骨の中に取り込まれやすい物質です。骨に取り込まれると長期間にわたって体内で放射線を出し続けることになるので、注意が必要です。ストロンチウムは測定することが難しく、時間もかかることから、現在はどのくらいの量が放出されたかはわかりません。ただしセシウムの量から考えると非常に少ないと考えられます。

セシウムやカリウムはナトリウムと同じアルカリ金属で臓器には濃縮されず、体外に排出されやすいので、基準値内の食物を食べていれば体内被曝に関して心配することはありません。

■プルトニウムはどうでしょう?

プルトニウムは気体状になりにくい、空気中に放出されてもすぐに下に落ち、広範囲に広がるとは考えにくいです。だから、福島原発周辺の土壌から検出されても、つくばや東京では検出されないでしょう。

ただし粉じんとして取り込まれると、肺に入り込み、体外に排出されにくいのです。プルトニウムは長期間にわたって放射線を出し続けます。だから、事故現場で働いている作業員の人たちはプルトニウムを体内に取り込まないように、注意が必要です。

■放射線の影響にも個人差がありますよね?少しの被曝量でも影響を受ける人もいるのでは?

放射線の被曝量が高くなると、個人差が出ます。事故現場で作業している人たちで、誤って非常に高い線量を受けた方には感受性に個人差が見られるかもしれません。ただし、通常の放射線作業での限度値(1年間50mSv、5年間で100mSv、緊急時に一時的に浴びる上限である250mSv)内では、感受性ということで個人差があるとは思えません。

■女の子を持つ母親として将来への影響が心配なのですが。

生物にとって、卵子は大切なものなので、かなり守られています。今までのチェルノブイリや広島、長崎の例を見る限り、100ミリシーベルトレベルの被ばくでは遺伝的影響は、疫学データ的にはないと言えます。

東大病院放射線治療チームのブログ記事には以下のように書かれています。
「ただし、妊娠中の方に対しては、もっと厳しい基準を設けるべきです。専門家の間でも議論はありますが、妊婦の方に安心していただけるよう、妊娠中の被ばく線量限度を10 mSv以下にすべきであると考えています。(国際放射線防護委員会レポート84)

■福島から避難してきた人の洋服についていた放射性物質による被害って考えられるでしょうか?

考えられません。検査でも汚染は見つかりませんし、見つかってもごくわずかな量なのでシャワーを浴びたり服を着替えて洗濯などをすれば安心できます。

放射性物質は体内に取り込まれた場合に、DNAを傷つけることがあります。ただし、私たちの体の中にも自然の中の放射性物質が常に存在しますし、私たちの細胞はそれらの放射線による損傷を修復する機能を備えています。市場に出回っている食べ物や水道水は基準値を守るように厳しく規制されているので、放射線被害を受けるということは、まず考えられません。

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By 尾嶋 好美 6月 4, 2011 19:16
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